ホワイトベースに学ぶ自由な働き方とそのマネージメント

ホワイトベースに学ぶ自由な働き方とそのマネージメント

Clock Icon2018.08.14

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働き方改革が言われはじめて久しいですが、世に語られるのは就業規則にからむ制度変更やテレワーク・デイなど試験的にやりましたという話ばかりで、改革というにはふさわしくないバズワードとなってしまっています。

クラスメソッドはふるさと勤務を含むリモートワーク前提の就業方法男性従業員の育児休暇取得率100%など、働き方の柔軟さやそれを支える管理部門の多岐にわたる取り組みで日本企業の先頭で10年先を走っていると思います。

ドイツでダイレクターとして勤務している私も普段はベルリンオフィスに出勤しないフルリモートワークで、さらに国を越えてスイスにもフルリモートで働く従業員がいます。それがどのように成り立っているのか、私の前職からの経験をふまえて、ワーカー、マネージャー双方の視点からその仕組みを明らかにしてみます。

求め合うことで生まれる組織と人の自律

ドイツにあるアメリカの通信会社に就職した私は、自宅勤務で事業開発と営業の仕事をはじめました。ドイツにある企業で働く人の約40%はホームオフィス、テレワークが部分的に許可されていて、20%弱はオフィスに常勤していません。これはドイツには経済的に一極集中している都市がなく、州によって教育制度などが大きく違うため仕事に伴う転勤があまりないことを反映していて、特にITの分野では自宅勤務を許可しないと人の採用が難しくなっています。

アメリカの時間に合わせ昼過ぎからコアタイムになるため、必然的にフレックス勤務になります。同僚はドイツ国内に20人いましたが、オフィス常勤は4名で、通信会社の業態からあとはフィールドエンジニアとPoPエンジニアで各地に散っています。こうなると働き方の自由度が無限大で従業員同士の接触も薄いため、組織として機能するのか不思議になってくるのですが、チームはうまく回っていました。それは、

ホワイトベースだったからです。

 ©︎はばっち(合成P)
  • ミッションは連邦軍のどこからか降ってくる。  --> アメリカから数字やプランが示される。
  • 目の前に現れる敵は各々が創意工夫して戦う。  -->  顧客対応であったり設備保守であったり、従業員個人の判断で仕事をする。
  • 避難民の数やミッションの大きさに対してクルーの数が少ない。  -->  同業の米国のライバル会社は欧州で1000人超、こちらは欧州所属が80人。しかし顧客の数も設備もそれほど変わらない。
  • 最前線部隊なのに補給が細い。  -->  全てのリソースが常態的に不足していて、自給自足(SOを取りに行くキャッシュ指向)をチームが自覚している。
  • 艦載機は最新鋭機が揃っている。  -->  仕事に使うツールは実験的なものを含めて最新のものを使っている。

組織というのは個人のアジェンダの集まりで、放っておいて機能するものではありません。ホワイトベースでは立場もモチベーションも違う人々が、生存という極めて低レベルの共通目的で段階的に互助され、自律していきます。そのためには、国のため、会社のためのような自分の手を離れた曖昧な目的は意味をなさず、ただ巡り合わせで自分の隣で戦う仲間のためという納得しえる人間関係の成長が求められます。

Working by you.  -->  Working with you.  -->  Working for you.

同じオフィスにいること、なんとなく仲良くやっていることといった環境要因はこの成長にはあまり関係がなく、自分のために、あなたにはこれをやってほしい、こうあってほしいという要求を立場を超えてぶつけ合うことが重要です。(ガンダムみれば一目瞭然です)そうすることで、疑心暗鬼な相互監視を行うことなく、遊んでいる状態の人がいない組織を作り上げることができます。

これにはローコンテクストに重点を置くコニュニケーション戦略が効果的で、距離にかかわらず、おのずとツールも決まってきます。

同期コミュニケーション 対面 重要で効果的だが、相手の時間を拘束することを念頭におく。会議しかり、二人で喋ればいいことに大勢を巻き込まない。
通話 対面と同等の効用があると認識する。会議の場合は事前に論点を伝え、説明を省きQA方式で行う。
非同期コミュニケーション メール コストが高いため、社内コミュニケーションには原則使わない。(時間の無駄)
チャット 現代的な仕事の基盤となるツールだが、同期コミュニケーションと同じ運用をせず、必要と判断すればすぐに同期コミュニケーションに移行する。
文書 チケット、タスク管理、Wikiなど全ての社内文書は短時間で記録することを最優先する。

このような一定のルール付けと同時に、ハイコンテクストコミュニケーションを人の仕事ぶりの評価から排除する規律もあるべきです。具体的にはオフィスで目立つ人、チャット内での雑談など、社内的なエクスポージャーはそれをあまり得意としない人にとってはなにか自分よりもそれをやっている人が評価されているように感じてしまうことがあります。

わざわざギスギスした職場を作ることはないですが、他の人から自分がどう思われているかを気にして仕事をする必要はなく、明示的に求め合う以外には人も組織も自律しえないのです。究極的には、非同期コミュニケーションでは「お疲れ様です (Hello)」や「ありがとうございます (thanks)」といった枕を省略できるところまで洗練するのが理想です。

労務管理はモラルと秩序の礎

そんな快適な会社員生活を送っていたのですが、ある日、ドイツのダイレクターが退職し、私がこれをまとめることになりました。

ブライト・ノア 19歳の中間管理職  ©︎ライダー(カミユ)

つまりマネージメント側に回ったのですが、ここではドイツの厳しい労務規則に苦しみ、そして助けられることになります。

ドイツの労務規則は業界や州によって異なりますが、IT業界のコモンプラクティスは以下のような感じです。

  • 週労働時間は36~40時間。
  • 残業を含めた1日9時間の労働は認められるが、常態化してはならない。
  • 残業を含む週労働時間の上限は48時間。
  • 勤務と勤務の間には11時間のインターバルが必要。
  • 年間有給休暇は30日。

特に週労働時間上限は厳守しないとOrdnungsamtという強制力を持った法執行機関が使用者を捕まえにきます。約200万円の罰金が課されるのは会社ではなくマネージャーで、3回で会社の営業許可がサスペンドされるので、マネージャーの責任は社内外両方に挟まれて重大です。

「何をやっている。休息もパイロットの重要な仕事だ。」

マネージャーの指令系統は、この制限下のリソースマネージメントとミッションの共有、指示の単純化を中核に組み立てることになります。ポジティブに考えれば、この制限があるからこそ効率の高い組織運営ができるのです。

ミッションの共有は、個人のジョブディスクリプションに基づいて理解を深めます。

ジョブディスクリプションは雇用契約の一部なので、従業員はここで設定されるミッションと個人目標以外は一切やる必要がありません。そのため、設定時にはできるだけ大きく抽象的なミッションと、高くても到達するための具体的な道筋が示せる目標で合意を目指し、決めた後はマイクロマネージメントを意識的に避けます。

日々のタスクは上述の通り、やってほしいことがあればポジションを超えて投げ合います。しかしそれはミッションに沿っていることが前提で、そのタスクをどういうブレークダウンで取り組むか、サブタスクを他の人に投げるかは、タスクを振られた人が考えて実行します。それをツール上で公開しておけば、マネージャーはリソースの過不足を把握することができます。

ここで厳格な労務規則がないと、個人の無理で組織がうまくいっているように見えてしまうケースが出てきます。労務規則を超えた「がんばり」を個人の貢献度と混同して評価してはいけないのです。むしろ個人の貢献はチームの成功に勝るものではないので、営業職を含めてパーソナルインセンティブの比重を過剰に高くするのも自由な働き方を阻害します。裁量労働と成果主義は相反する面が多く、ドイツ的には成果主義こそ秩序の上で成り立つものと言えます。

カルチャーあっての自由な働き方

地球をほぼ一周してたどり着いたジャブローあたりで、ホワイトベースのクルーはまとまり、個々人が軍人(プロフェッショナル)としての責務を果たすようになります。その様子は新規加入した明らかに空気感の違うスレッガー中尉が、自分の個性を殺すわけでもなく自然とブライト船長率いるホワイトベースの一員として戦力になっていくところに描かれています。(ここまで書いて、私より世代が若いベルリンオフィスの面々を前に、機動戦士ガンダムを通して見ている前提で説明している自分が正しいのかわからなくなってきましたが。)

クラスメソッドに転職してはや一年が経ちましたが、休暇日数を業界標準まで引き上げるなどの多少の制度的な調整はあったものの、前職でのドイツ風のマネージメントがそれほど違和感なくベルリンオフィスで実施できていると感じています。これは本社での採用・管理方針が、多様性をまとめられるカルチャーに立脚しているからだと思います。

カルチャーは長い時間をかけて醸成される抽象的なものなので、もともと自由でない職場で、リモートワーク導入しました、育児休暇を云々、では定着も継続も困難です。従業員一人一人が、他者にどうあってほしい、そのために自分はどのように働きたいと願い、それを着実に実行できるマネージメントがあることがスタート地点になります。

自分には技能があり、自由に働きたいという強い希望があるにも関わらず、自社のカルチャーを変えていくまで待っていられないという場合はどうすればいいのでしょうか?

お盆明けにクラスメソッドの会社説明会に参加されてみてはいかがでしょうか。

 


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